Thunderbirdの日記

桜梅桃李 鏡花水月

ある日の思ひ出 自分編


 実際に怪我したときに乗っていた、壊れる前のぢてんしゃ。



基本的に無茶ばっかりしていた。


中学生になって最初の夏休みに、
おかあさんから、かき氷のイチゴ味の
シロップを買ってくるようにお使いを頼まれた。


昼ご飯前だったので、急いで出発した。


まだ新しいぢてんしゃで、ひと山越えたところにある
「たわらや」に買いに行った。


その二軒手前は醤油屋だった。
 ↑ 
  これは関係ない


イチゴ味のチクロ入りのシロップを買って、
落ちないように後ろの荷台にゴムで
何重にも縛り付けた。


早く帰って食べたかったので、
必死で上り坂を登り、下りになっても
ペダルを漕ぎ続けた。


中腹まで走ったところで、ハンドルから手を離し、
後ろの荷台に両手をついて、
ふんぞり返った姿勢で走っていた。


俗に言う手放し運転である。


調子に乗って猛スピードで下り、
右カーブにさしかかったとき、
何を思ったのか、荷台についた手を
肘までつけて後ろに寝そべった。


スピードが出てるので安定している。


カーブを抜けたときに、寝そべったままで
両足をVサインみたいに上げた。


いきなりバランスが崩れ、車体が小刻みに蛇行した。


しがみついてるのは、手だけだったので、
元の姿勢に戻すことが出来ないまま、
顔面からアスファルトに落ちた。


向こう側から手前側に走って来てユンボあたりで転んだ。



地球に頭突きである。


ヤシマ作戦と名付けた。


ぢてんしゃが、回転しながら飛んで行ってるのが見えた。


左顔面と左肩で逆立ちした状態になり、5~6mぐらい
滑っただろうか。


その後、高速で数回前転して止まった。


不思議と痛みは全く感じない。


大量の血が目に入って、何も見えなくなった。


周りに誰もいなかったので、知り合いの
家に這って入り、助けを呼んだ。


ほふく前進作戦と名付けた。


あいにく知り合いのおぢちゃんは留守。


しばらくして、留守番のおばあちゃんが
奥からゆっくり出てきた。


ほぼ全身が血まみれだったので、
何も聞かずに緊急事態だと分かり、
更に隣の家に助けを呼びに行ってくれた。


当時は、自宅に車を持ってるところは
あまりなかった。


そこで登場したのが、農作業用のリヤカー。


血が引っ付かないようにか、リヤカーのバイ菌が
引っ付かないようにか分からなかったが、
全体に藁を敷いてくれた。


汚れ防止作戦と名付けた。


数人に取り囲まれて500mぐらい先の
自宅まで運んでもらった。


狭い道路の途中で車とすれ違った。


運転手が、窓越しに「こりゃひどか、
死ぬとばい」と言っているのが聞こえた。


リヤカーを引っ張ってくれたおぢさんが、
「いらんことを言うなバーカが」と言ってくれた。


目は見えなかったが、声で誰か分かった。


周りの人は出血の多さを心配して、
意識がなくならないようにずっと声を掛けて
励ましてくれていた。


イチゴ味のシロップは大丈夫だったか聞いた。


リヤカーと一緒に、曲がったぢてんしゃを
押してきてくれてたので、シロップの無事が
確認出来た。


子供ながらに、更に子供だった頃のことが
薄れゆく意識の中で走馬燈のように思い出された。


12年の短い人生だったと思った。


自分の怪我より、かき氷のシロップと
おかあさんに怒られるのが心配で
気絶出来なかった。


自宅に着いて、車に乗せ替えて貰い、
掛かりつけの病院に運ばれた。


鬼のように怒られると覚悟していたが、
予想に反して全く怒られなかった。


軽い出血性ショックなのか、全身に
力が入らないようになっていた。


あしたのジョーの両手ぶらり戦法と名付けた。


顔の左側上部の傷がひどく、
目の上が深く切れて、周りの肉が
無くなっていた。


ついでに眉毛もなくなった。


頭蓋骨は割れていなかった。


傷口を消毒して、医療用のホッチキスで4カ所とめた。


左肩も肉がなくなり、骨がひっと出ていた。


左胸が腫れていて、顔や肩の傷よりも
そっちの方を詳しく検査していた。


全身に擦り傷があり、ぼろぼろの状態だった。


満身創痍作戦と名付けた。


手当てが終わって外に出たら、
病院の隣に住んでる同級生の女子がいた。


最初は包帯だらけなので、誰か分からないでいたが、
近づいて見られてバレた。


「フランケンになっとる。バーカが」と笑われた。


おかあさんと3人で笑った。


笑いすぎて包帯が緩んで血が滲んで来た。


全身に激痛が走った。


帰りに「たわらや」に寄って酒を3本買った。


シロップは買わなかった。


お世話になった人たちに、酒を配りながら帰った。
一人一人にお礼を言った。


みんな入院する思っていた。


やっと家に着いたのは、もう夕方になっていた。


昼ご飯抜きで、晩ご飯を食べた。


チキチキマシン猛レースを見ながら、
念願のかき氷を食べた。


苦労したので、とてもおいしかった。


両手を離して足を上げるとバランスが崩れることと、
かき氷を食べるのは、命がけだということが分かった。