ある日の思ひ出 ゆ○ぞう先輩編
これまたご立派な先輩だった。
バイクはYAMAHA GR50。
魚港に突き出た防波堤の先端まで行き、
Uターンするときに、アクセルターンで
曲がろうとした。
沖を見て左側に堤防、正面と右側は海だった。
幅は3mぐらいしかなく、
滑り止めのガサガサ仕上げのコンクリート製で
砂やゴミもないきれいな状態だった。
50ccで非力なのでアクセル全開で
クラッチを離した。
40度ぐらい方向が変わったときに、
グリップが回復した。
クラッチを離す前の回転数が足りなかった。
落ちたらどーしよーと思いながらやったので、
思い切りが悪かった。
何とか止めようとしたが、
右側の海にバイクだけ飛んで行った。
追いかけるように先輩も飛んで行った。
幸い、船を繋ぐロープにしがみついた。
みんな笑って助けない。
バイクはボコボコいいながら沈んで行った。
追いかけて、潜ろうとしているのを見て、
みんなでムリムリと言った。
ロープを引き寄せることもなく、みんなで
温かく見守った。
何度も海に落ちながら這い上がって来た。
さすが男ゆ○ぞう。なかなか死なない。
海面にオイルが浮いてきた。
海を汚すと漁師さんに怒られるので、
その日はみんなで仲良く帰った。
次の日の早朝に、港に置いてある船の
碇をだまって借りてきた。
(盗んだわけではない)
ロープを結んで、何回も投げ込んだ。
最初はロープが短すぎて、巻き付けた
手を引っ張られて、先輩は海に沈んだ。
このときは、さすがに助けようと飛び込んだが
自力で上がって来た。
もう一個碇を借りてきて、長めのロープを
結んだ。
数回投げ込んだ時に手応えがあった。
釣れた釣れたーと先輩が叫んだ。
みんなで協力して、防波堤まで引き上げた。
小さいバイクだが、海の底から防波堤まで
引き上げるには、4人がかりだった。
碇を返して証拠を隠滅した。
最初の碇はまだ沈んだままだが、
盗んだ訳ではない。
ずいぶん長い間借りているだけ。
当然エンジンは掛からない。
碇で付いた傷と海底の泥が付いた
バイクを押して近所の公園に移動した。
引き上げたときには、そんなに錆びてなかったが、
乾燥してくると、みるみる赤さびになっていった。
公園の水道から水をどんどん引っかけるが、
塩分の方が強力らしい。
バイク屋に持って行って事情を話したが、
あきらめた方がいいとのこと。
中古のバイクを薦められた。
男ゆ○ぞうお金はない。
自分達で分解し、適当に掃除した。
電気系統は全滅だったので、ダメかと思ったが、
執念のキックでまさかの復活。
すぐ止まったが、本人は一生懸命
掛かれーと言いながらキックしていた。
他の先輩や私は、タンクやタイヤをキックした。
かなりぼこぼこになった。
ブレーキも効かない、ライトもウインカーも点かない、
消音器が錆びて音はうるさい、アイドリングは
効かない、タンクはぼこぼこ、ハンドルは
碇で吊り上げたときにかなり曲がっていた。
それでも塩漬けバイクで
楽しそうに走っている。
昭和の時代はそれが許された。?
私にはろくな先輩がいないことが分かった。