Thunderbirdの日記

桜梅桃李 鏡花水月

ある日の思ひ出 写真は関係なし

怖いけど男らしい先輩がいた。


何も言わないが、オーラがすごい。


中学を出て、何かをしていた。
仕事は長くて一週間しか続かない。


直接の付き合いは余りなかったが、
ある日突然、しばらくの間、バイクを車庫に
隠してくれと頼みに来た。


何かそれなりの事情があるらしい。
断る理由もなく、絶対見えないように
毛布を被せて保管した。
おかげで、おかあさんの車は
車庫の外に置くことになった。


もしも誰かに見つかったら、知らないと言えと言われた。
自宅の車庫に毛布を被せて置いてるのに、そんな
無茶苦茶なと思ったが、よかよと答えた。


一週間しても取りに来ない。
連絡も無い。
当時は携帯もなく、電話もない家があった。


10日後の深夜に取りに来て、ありがとうと言って
バッテリーの上がった750RSのエンジンを
キックでかけた。


ケンカも化け物クラスに強いが、
バイクの腕も上等。


右に倒れてる750を、左側からハンドルを
引っ張って軽く起こす怪力。


消音器を抜いたヨシムラ集合管の爆音を
深夜にアイドリングで響かせながら、
つぶれて曲がったたばこに火を付けた。


一服するのかと思ったら、いきなり「じゃっ」
っと言ってくわえたばこで発進した。


かっちょいいー


と、思ったら、凍えそうな気温の中、エンジンが
暖まっていないのに、CRキャブをいきなり
全開にしたので、エンスト。
すかさずセルを回し再スタート。
またエンスト。

そのときの音。

キックでスタート
  ぶるる ぶるる ぶばぉ~~ん

アイドリング
  ぶろろろ~ぶっぶっぶろろろ~~
  (アイドリング不安定)

スタート
  ばっばっ・・・・・

再スタート
  きゅるきゅるばっばっ・・・・・

再々スタート
  きゅるきゅるばぉ~~~~~~~~ん


フロントフォークが伸びきったり縮んだり。
まさに跳ね馬。
上半身がガックンガックン上下している。
鍛え抜かれた腹筋と背筋があるから
持ちこたえたのだろう。
私だったら前歯が折れるか、
目玉が飛び出してたかもしれない。


あまりのじゃじゃ馬ぶりに、夜中でも掛けてる
真っ黒のスペクターが鼻の下までずり落ちた。


それでもアクセルを緩めることはない。
男は常に全開だった。


超かっこいい。


笑いたいが、この場面で笑ったら
大怪我することになる。


その先輩は、その後35年間消息不明。


先輩から学んだ男らしさの証明。

男は家に帰らない。
 風呂に入れないから、夜の海で身体を洗う。
 塩分は、公園の水道か、雨上がりに出来た
 水溜まりで洗う。

たばこはつぶれて曲がったものを吸う。
 フィルターに火が移るまで吸って、
 指が焼けてあっちっと言う。

倒れたバイクは、反対側から片手で起こす。

小言は言わない。

何があってもキレない。
怒る前に冷静に殴る蹴る。

消息を絶つ。


男は、さんざん人に迷惑をかけていても、
最後は猫ように姿を消すことが分かった。


かっちょええ~~~~