Thunderbirdの日記

桜梅桃李 鏡花水月

ある日の思ひ出 おお○まさん編


小学生の頃、近所におお○まさんの家があった。


部落の境目に一軒だけ、離れて建っていた。


そこのおぢさんは、夕方になると空手着に
着替えて、庭で指立て伏せをしていた。


木に藁を巻いて、空手チョップをおみまいしている。


ボロボロの黒帯だった。


無口だが、独特の雰囲気があった。


私たちが、ブロックの隙間から見ているのを知っていた。


たまにのぼせて、カマキリ拳法をしてみせた。


笑い声が聞こえると、誰が見よっとなーと怒られた。


しかし、すぐ稽古に戻った。


真空跳びヒザ蹴りの沢村忠より強いのかなーと思った。


雨の日以外は毎日見に行ってたので、家に連絡があり、
教えてもらいに行くことになった。(無料)


最初の数ヶ月間は、柔軟体操だけ。


なんでこればっかりなんだろうと思った。


ケンカは絶対するなと約束させられた。


言うことを聞くようになって、初めて拳の
握り方と力の入れ方と突く角度を教えて貰った。


力を入れるとスピードが出ない。


コンタクトの瞬間に反対側の手を更に引くことで、
腰と肩が十分に入り破壊力が増す。


指先から絞るように固く握れ。


固い物は拳で叩くな。



次に蹴り方。


股裂き攻撃で、股関節を徹底的に
柔らかかくされた。


当時は冬でも半ズボンだったので、
小さな玉がはみ出るぐらい広げられた。


こんにゃくみたいな身体にならないと、
怪我をするという持論だった。


同時に、蹴りで使う筋肉を鍛えていたらしい。


なかなか出来なかったのが、まっすぐ立つこと。


竹が頭からケツの穴を通って、地面に突き刺さってる
ようにイメージして立てと教えられた。


意識すればする程ふらふらする。


肛門以外の力を抜き、へそに意識を集中する。


鼻から3回に分けてゆっくり息を吸い、
口からゆっくりはき出す。


ひっひっふーとちょっと違う。


これがちゃんと出来るまで半年ぐらいかかった。


重心が下がり、蹴って空振りしても
ふらつくことがなくなった。


要はバランスと回転力が問題なんだと思った。


芯がぶれない攻撃が出来ると、ムダに体力を
消耗しないのと、構えにスキが出来ない。


息が荒くなるのは、気が小さくて、
緊張して呼吸が乱れるからだと教えられた。


へそで息をする。


ある程度基本が出来るようになると、
攻撃のあとは、前のめりになるように
立つ姿勢を変えるように言われた。


実戦では、攻撃に体重を乗せる必要があった。


練習してきたことが基本になり、
攻撃力を上げる稽古に変わったとき、
なるほどと思った。


コンタクトの瞬間に、どれだけ体重を乗せて
いい角度で打ち込めるかが大切だと分かった。


今まで割れなかった瓦が、
力を入れなくても割れるようになった。


だんだんおもしろくなってきた。


これが中学に入ってからも毎日では無かったが
可能な限り続き、後に道場に通うことになった。


ケンカ禁止は、中学を卒業して解禁された。


数年後に聞いたが、当時のおお○まさんは、破門されていた。


自分の稽古を見てくれるのが嬉しかったと語ってくれた。


教えることで、金を貰うことより、強くなってくれることの方が
嬉しかったと言ってくれた。


自分が教えているのに、ケンカして負けるのが
嫌だったので、禁止したと教えてくれた。


私にとって、よき指導者だった。


見た目は、鬼瓦みたいだったが、
本当に純粋な気持ちの持ち主だった。



物事を冷静に見る技術を学んだと思う。


いろいろ約束事があった。

・理由も無く自分から仕掛けるな。

・もしもケンカになったら、手段を選ばず必ず勝て。
 (刃物は絶対禁止)

・上からものを言うな。下から一気に突き上げろ。

・優勢になったとろこでやめろ。

・最後は急所に寸止めして、相手に敗北を分からせろ。
 (とどめは刺すな)

・殴られた相手の痛みが分かる人間になれ。

・人のせいにするな。嘘をつくな。

・人を許せる人間になれ。

・常に冷静でいろ。

・なるだけ酒は飲むな。

・いろんな意味で強くなれ。



数年後に肝硬変で亡くなった。


最後の力を振り絞って教えてくれていたのが分かった。