断水の恐怖 第四話 あ~無情
続き
前回までのあらすじは第一話~第三話を読んで下さい。
どう見ても足の長いおじさんが、
救世主であるバケツにたどり着くまでの
半生を描いたドキュメントである。
弾丸より素早く元の場所に戻ったが、
ロックする余裕がなく、
引き続きドアを手で押さえた状態に戻った。
すかさず目を閉じて、コシマ作戦で
耳に全神経を集中し、敵の動きを観察した。
座頭市の気持ちが分かった。
個室から見ると、左側に入り口があるので、
足音は左耳から両耳で聞こえるように
移動するだろうと予測していた。
左耳から聞こえる足音は、更に左耳に偏り、
個室のドアを閉めてロックする音が聞こえた。
全身に鳥肌が立った。
フランス語ではチキンスキンというらしい。
隣の個室で、ベルトを緩める音が聞こえた。
ズボンを下ろす音がして、深いため息をついている。
まさかの展開である。
目が点になるとは、こんな状態をいうのだろうと思った。
しかし、隣人が座ってしまえば、
脱出するチャンスが来ると思った。
もしくは5~6分待てばいいと思った。
立てこもり作戦と名付けた。
隣の様子を想像しながら
人の出入りの様子を観察した。
コシマ作戦で集中しているのだが、
隣の個室から聞こえる息遣いや
花粉症なのか、鼻をかむ音に邪魔され、
外部の様子が把握出来ない。
隣の人から見ると、前の個室の人が
ズボンを上げる音もせず、
トイレットペーパーがカラカラ回る音もせず、
水を流す音もしないで出て行くのは
あきらかに変だと思うだろうと思った。
個室から出て行くときに
疑似音を出す順番を考えた、
まずトイレットペーパーの音、
次に水洗レバーが空振りする音、
ズボンを上げる音、
ベルトを締める音、
ドアのロックをスライドさせる音。
隣の個室の人の感じ方を予想し、
一連のプロセスのシミュレーションが完成した。
君のために頑張ってるんだよと思った。
パントマイムの通信教育を受ける必要が
あることが分かった。
つづく